「進行がんを眠らせる」NEXT GENERATION #03/患者の集い・モミの木 平林茂の書き下ろし

久しぶりにがん統計の資料に目を通しました。がんを語る上で、常に二つの視点を持ちながら見ていかなければならないといつも考えているからです。一つはマクロの視点、つまりがん全体の統計的な数字の把握です。具体的に言えば、罹患者数とか死亡率の推移とかになるでしょう。

もう一つはミクロの視点です。ここでいうミクロとは、患者個々に対する病状の分析や治療法やその効果である。本書では、どちらかといえばこのミクロの視点を重視して話を進めていくことになります。ミクロの視点を重視するのは、がんは個々の患者さんやその家族にとってのある意味閉鎖的な病であるからだ。コロナのように広域な範囲で伝染性を伴うものとは、根本的に対処も治療法も異なります。しかも、同じがん種であっても一人として同じがんはないのが実際です。

とはいいっても、マクロの視点で見ないとがん治療の方向性を示せないし、考えられないでしょう。その点で、このがん統計資料は貴重な指標となります。

図表は、公益財団法人がん研究振興財団が作成しているものです。

がん情報サービス ganjoho.jp「がんの統計 ’23」より
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/2023_jp.html

がん情報サービス ganjoho.jp「がんの統計 ’13」より
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/2013_jp.html

2022年のがん死亡者数は、男女合わせて380,500人 10年前の2012年は360,963人となっています。更に10年さかのぼると304,286人という数値が出てきます。

ここで、読者には立ち止まって考えてほしいと思います。

多くの読者は、ここ10年のがん治療の科学的進歩は素晴らしいものがあり、がん治療の成績は飛躍的に伸びていると信じていると考えているでしょう。

しかし、実際は、死亡者数は増え続けているのが実状であり真実です。

通常、この数値が10年前に比べ半減したとか、明らかに減少傾向にあるというのならば、

近年のがん治療は成功を収めていると評価できるし、実際その通りでしょう。

残念ながら、この結果に対して疑問を呈したり、公に意見を述べたりする医師や学者はほとんどいません。

がんセンターなどの主張では、この死亡者数の増加は寿命の延びを加味していないので、それらを新たに修正に加えることで、がん治療の進歩をうたっています。これを年齢調整死亡率といいますが、それで検討すれば、確かに若くして死ぬ人が少なくなってきてはいますが、おそらく、検診制度の広がりの成果で上皮内癌である初期の段階で発見でき治療を行うことができた成果でしょう。いわゆる「早期発見・早期治療」の成果です。

しかしながら、残念ながら進行したがんに対しては、一部のがん種を抜かして昔も今も治せないという現実が目の前に突き付けられます。

その結果が38万人の死亡者という数値に現れているのです。

それでは何が問題なのか?

解決策はないのだろうか?

次回は、この問題について考えていきたいと思います。